「―――桂木。おい、桂木! 聞いているのか?」


「…は、はいっ! …えーと、何ページでしたっけ」


授業中に突然差され、それに動揺して答える弥子。

元々、この都内有数の進学校の中では成績順位は下から数えた方が早い弥子だったが、ここ最近はというと、授業中はほとんど上の空であった。


「ねえ弥子、あんた最近どうしたの? 何かあった?」


友人の叶絵に心配そうに顔を覗き込まれる。


「ううん、何でもないよ…」



無理に笑顔を作って見せるが、まさか本当の理由を言えるはずもなく。

(いくら叶絵でも、魔人にヘンな薬を飲まされて無理矢理イカされました、なんて言えるはずないよなぁ…)

弥子が最近集中力を欠いている理由は、この前の事務所での一件だった。

あれ以来事務所には行っていないから、その後ネウロとは一度も会っていないが、

もしまた呼び出しをくらったらどんな顔をして会えばいいのか、弥子はそれを考えるだけで憂鬱だった。


―――否。



憂鬱なのと同時に、微かな期待をしていたのも事実で。

いくら薬のせいとは言っても、この間の出来事は決して弥子にとって不快なだけのものではなかった。

自分の意識は拒否しているのに、体がそれを求めてしまう感覚。

嫌だと思っているのに、感じてしまう自分。

弥子にとっては、全てが未知の経験だったのだ。


それだけじゃない。


「はは〜ん。もしかして、恋わずらい、とか?」


叶絵の言葉に、ぎくっと反応してしまう弥子。



「や、やだなぁ、叶絵ったら! 色気より食い気のこの私が、恋わずらいなんてするわけないじゃない!」


自分で言ってて悲しい気もするが、とにかく全力で否定する弥子。

(…そうだよ。まさか、ね…。無理矢理あんな事されたくせに、アイツの事が気になるわけ、ないじゃない…)


「ははっ、確かに言えてる! まぁ何があったか知らないけど、元気出しなね、弥子」






その日も弥子は、事務所には寄らずにまっすぐ家路についた。
 
学校帰りに事務所に寄るのは日課のようになっていたから、ここ一週間一度も事務所へ顔を出していないのでは、流石にネウロにも不審がられているだろう。

自分の部屋に入り、なかば倒れ込むようにベッドに仰向けになる。

(だからって、アイツに合わせる顔なんてないし…。いっその事、何事もなかったように普通にしてた方がいいのかなぁ)


「何を考え込んでいる」


「ひっ…! ネ、ネウロッ!?」


弥子が目を開くと、目と鼻の先に上下逆さまになったネウロの顔が迫っていた。


「我が輩の事でも考えていたのか?」


ネウロは軽やかに天井から降り立つと、弥子が今一番気にしている事をグサリと言い放った。

思わず返答につまってしまう弥子。


「ほう、図星のようだな」


「だっ、誰がアンタの事なんかっ!」


がばっと飛び起きて勢いよく反論したものの、弥子の脳裏によぎったのは先日の事務所での淫らな行為だった。


「…そうか。貴様が最近事務所に来ないので見に来てやったが、心配はいらなかったようだな」


「な、何よそれ! 元はといえば、アンタがあんな事したからじゃない! あんな事されて、前みたいに事務所に行けるわけ…」



「ほう。あんな事というのは一体何だ?」


ネウロの顔が愉しげに歪む。


「とぼけないでよ! この前、変な薬飲ませて私を


「イかせてやった、か?」


「…!!」


直球すぎる言葉に、思わず詰まる弥子。

ネウロは、弥子の頭を掴むとぐっと顔を寄せてきた。


「…期待、してたんだろう?」


「ば、バカじゃないのっ!? この前は、アンタの飲ませた薬のせいで、変になっただけで…」


「そうか。では、魔界能力なしで貴様をイかせれば満足なのだな」


「そう、あの薬がなければ…って、違うっ!そんな事言ってな…」


ネウロは、弥子の頭を掴んだまま、そのままベッドへと押し倒した。


「待ってよ! やめてってばっ!!」



前回の事があるだけに、弥子は必死で抵抗した。


ネウロに一度拘束されてしまったら、もう全てが手遅れだ。


だが、魔人の前に弥子の抵抗が通用するはずもなく、弥子の両足は空しく中を蹴るだけだった。


ふいに、ネウロの唇が弥子の唇を塞いだ。



「……!!」



突然の出来事に、弥子の抵抗がぴたりと止む。


ネウロの舌がするりと弥子の唇を割って入り込んでくる。


てっきり、前回のように無理矢理拘束されると思っていたのに、予想外の展開に弥子は抵抗する事すら忘れていた。


いつもの自分に対する手酷い仕打ちが嘘のように、ネウロの舌は優しく、甘く、そして時に激しく、弥子の口の中でその舌を求めた。


舌を吸われると、脳の奥が痺れたような感覚に襲われる。


時々、わざと音を立てるように舌を吸われると、羞恥の余りに弥子の頬が赤く染まった。


ネウロは左手で弥子の腰をぐっと自分の方へ引き寄せ、右手で弥子の髪を梳きながら、なおも口付けを続けた。


弥子はいつしかその甘い快楽に身を任せ、自分からネウロの舌を求めた。


(…私、どうしちゃったんだろう…こいつにこんな事されて、嬉しいわけがないのに…。)


だが弥子は、この前の事務所の一件以来どこかでこうなる事を期待している自分を、否定する事ができなかった。


魔界能力を使って無理矢理欲情させられた弥子は、その時に体がネウロを求める感覚、そしてネウロによって与えられる至上の快楽を覚えてしまった。


薬の催淫効果が消えても、体に無理矢理覚えこまされたネウロの指の動きや、ネウロによって迎えさせられた絶頂感は弥子の肉体に刻まれた。


それが、叶絵の言う所の「恋わずらい」などとは思わなかったが、今まで男性経験のない弥子にとって、忘れられない出来事となってしまった事には変わりなかった。


弥子を抱き寄せていたネウロの腕が一瞬緩んだかと思うと、次はその手が弥子の制服のブラウスの中へと侵入してきた。


弥子は一瞬だけ身を強張らせたが、いつになく優しいネウロの手つきと甘い口付けに、すっかり警戒を解いてしまっていた。


それ以上に、これからネウロに与えられるであろう快楽への期待が、今の弥子を従順にさせていた。


(私…叶絵に言われた通り、やっぱりこいつの事好きなのかな…?)


弥子のブラウスの下で、ネウロの手はその小さな乳房を揉みしだいていた。



「…私の胸、小さいでしょ?」



「別にそれが悪いとは言っていない」



普段、散々小さい小さいと馬鹿にされてきたので、つい少し意地悪く言ってみたのだが、そんな風に返されて、弥子は耳まで真っ赤になってしまった。


ネウロの手がブラジャーの下にまで入り込み、既に硬くなった弥子の乳首をきゅっと摘んだ。



「んっ…」



「感じているのか?」



「そんな、事…ぁあっ」



否定しようとしたが、服の上からではなく直に胸を揉みしだかれる感覚に、弥子は悦びの声を上げてしまう。



「ほう、そんなにいいのか」



ネウロの手がそのまま下へと移動してくる。


制服のスカートの中へ侵入してくると、ネウロの中指が下着越しに弥子の一番敏感になっている部分を軽くなぞった。



「ん……あはぁっ」



「まだ触ってもいないのに、もうこんなになっているぞ」



弥子の秘所からはとめどなく愛液が溢れ出て、すっかり下着が張り付いていた。


ネウロは弥子の秘部へと中指を挿し入れると、蜜壷をかき回すようにその液体をすくい取り、弥子の眼前にそれを突き付けて見せた。


ネウロの指から蜜の様にしたたるそれを見せ付けられ、弥子は顔を真っ赤にして俯いた。



「そうか、そんなに我が輩が欲しくてたまらないか」



「…………」



否定など出来るはずがない。


既に弥子の肉体の大半は快楽に支配され、かろうじて残されている理性の欠片では、太刀打ちできるものではなかったからだ。


意識の朦朧とする頭で、コクン、と頷いてしまう弥子。


その途端、先刻まで弥子を優しく愛撫していたネウロが、唇の端を上げて意味ありげに微笑んだ。


心底愉快そうな、それでいて最も凶悪な笑み。


弥子は、そこでやっと自分の愚かさを思い知る事になる。


魔人であるネウロに、優しさや甘さを期待した事自体が間違いだった。


ネウロがこの表情を浮かべる時、決まって手酷い仕打ち――拷問とも言う――に遭うという事を、弥子は身をもって知っていた。


思わず後ずさりしようとするが、時既に遅く、ネウロに手首を掴まれたかと思うと、あっさりと手錠でベッドの足へと拘束されてしまった。


目にも止まらぬ速さで、ネウロは弥子の四肢を次々とベッドの足へと拘束していく。



「やっ、何す…」



抵抗する間もなく、両手足を四方向に伸ばされた状態で弥子は拘束されてしまった。


続いてネウロは、弥子のブラウスを左右に無理矢理開いた。


ブラウスのボタンはプチプチと音を立ててはじけ飛び、弥子の薄い胸が露わになる。


次にネウロは自分の指を鉤爪状に変化させると、弥子の下腹部に下着越しにそれをあてがい、ビッ、と下着を切り裂いた。



「ネウロ…一体、どういう事…?!」



「貴様が『欲しい』と言ったのだぞ。奴隷が主人に頼み事をする時はどうすればいいのか、貴様はまだ分かっていないようだな」



「そんな…っ」



「ほら、欲しいのなら懇願してみろ。『この淫乱な奴隷に、ご主人様の肉棒をお与え下さい』とな」



「……! そんな事、言えるわけないじゃないっ!」



「言えないのならば、お預けだ。じゃあな、ヤコ」



そう言うなり、ネウロはベッドから降りると、スタスタと窓際へ向かって歩いていく。


ネウロが窓枠に足を掛け、まさに部屋を出て行こうとした所で、弥子ははっと我に返る。



「ちょっとっ! こんな状態で、置いてかないでよっっ!!」



弥子は両手足をばたつかせてみるが、金属音が空しく響くだけだった。



「お預け、だと言っただろう。それに心配せずとも、ここは貴様の家だ。ここで叫んでいれば気付いた家族が助けてくれるだろう。

……貴様のそんな姿を見て、母親がどう思うかは知らんが」


「……ッッ! この鬼畜魔人……」



弥子は、ようやくネウロの企みを知った。


確かにネウロの言う通り、ここで助けを呼べば母親が助けに来てくれるだろう。


だが、こんなあられもない姿にされている自分を見られたくはなかった。


ただ拘束されて衣服を乱されているのであれば、突然の侵入者に強姦されたようにも見えるかもしれない。


だが弥子の下半身は、はしたなく快楽を欲して涎を垂らしているのだ。


欲情したこんな姿を見られては、何の弁解も出来ない。
この拘束を解いてもらうには、ネウロに懇願して抱かれる他ないのだ。



「…………。」



「どうした。どうして欲しいのか言えないのなら、我が輩は帰るぞ」



「…ま、待ってっ」



半ば悲鳴のように、弥子は叫ぶ。



「何だ」



「…ネウロ、お願い。私、言うから…。どうして欲しいか、言うから…」



泣きながら、ネウロを引き止める弥子。


もうここまで来たら、プライドになど拘っていられない。



「ほう」



ネウロは窓枠から足を下ろすと、ベッドの横までやって来た。


自分を見下ろすネウロの顔を、すがりつくように弥子は見上げた。



「お願い…………ネウロが、欲しいの」



「まだ口の聞き方が分かっていないようだな」



パァン、と乾いた音が弥子の部屋に響く。


頬を平手打ちされたのだ。


ネウロは弥子の髪を掴んで無理矢理顔を上げさせた。



「奴隷が主人にものを頼む時はどう言えばいいのか、まだ分からないみたいだな。


…さっき教えてやっただろう。『この淫乱な奴隷に、ご主人様の肉棒をお与え下さい』と言うんだ」



「くっ……!」



弥子は、両目から大粒の涙をぼろぼろと流しながら、ネウロを睨み付ける。


背に腹は変えられない、とは正にこんな状況の事を言うのだろう。


さっき、ほんの一瞬でもこいつの事を好きかもしれないなどと思ってしまった自分を、呪いたいくらいだった。



「ひっく…この…淫乱な、奴隷にっ……うぅっ」



人間としての尊厳を失うその台詞を、全て言い終わらないうちに、弥子は耐えられずに嗚咽を漏らした。



「自分の欲望に正直になれ、ヤコ。口では嫌だ嫌だと言いながら、貴様の肉体はこんなにも正直だ」



弥子の秘所からは、先程から透明な甘酸っぱいとろりとした汁が滴り続けていた。


(こんな事されて感じてるなんて、私、本当に淫乱なのかもしれない…)


こんな拘束、すぐに解いて欲しいに決まっているはずなのに。


弥子は前回の経験からか、手錠で拘束されると興奮する体になってしまっていた。


勿論、本人にその自覚はないのであるが。


最初はすぐにでもこの拘束を解いてもらいたい、というだけの願いであったが、

徐々に弥子の願いはそれ以上にネウロによって肉体を貫かれ、絶頂を迎えたい、という類のものに変化してきていた。


「いくらでも待ってやる。貴様が本当に望んでいるのなら、言えるはずだ」



そう言って、ネウロは満面の笑みを浮かべる。


表面的には優しげな笑顔だが、一皮めくればその笑顔は凶悪さの塊である。


なおも泣きじゃくる弥子の髪を撫でながら、ネウロは耳元で誘惑の言葉を囁き続ける。



「貴様が懇願さえすれば、紳士の我が輩は貴様をレディーとして優しく扱ってやるぞ。


貴様は、早く己の肉体の疼きを鎮めて欲しいのだろう? 貴様の快楽のツボを把握している我が輩なら、すぐにでも貴様をイかせてやれる。

そうすれば、貴様を縛り付けているこの手錠もすぐに外してやるぞ」



「ネウロ……」



弥子には既に正常な判断力は残っていなかった。


その屈辱の台詞を言う一瞬だけ我慢すれば、この苦しみから解放される―――

そう思うと、例えそれを言う事によって人間としての尊厳を失う結果になったとしても構わない、とさえ弥子はおぼろげな意識の中で感じていた。



「この…淫乱な、奴隷に、」



涙を浮かべながら、弥子は目の前の男をすがるように見つめる。



「……ご、ご主人様の………を、お与え、下さい……」



「よく聞こえないな」



「お、お願いっ! この、淫乱な奴隷に、ご主人様の肉棒をお与え下さいっっ……!!」



半狂乱になりながら、弥子は声を搾り出すようにして懇願した。



「よろしい」



そう言うなり、ネウロは手早く自分の衣服を脱ぐと、弥子の体をまたぐようにしてのしかかった。


ネウロの肉体の中心でそそり立っているものを見て、男性経験のない弥子は一瞬だけひるんだが、奴隷の宣誓をさせられた弥子に、もはや怖いものなどなかった。



「安心しろ、ヤコ。本来、魔界生物である我が輩には生殖器官など必要ない。あくまでこれは、人間に擬態するためのものだ。妊娠する心配はない」



次の瞬間、濡れそぼった弥子の秘所が、圧倒的な質量によって埋められる。



「だが、貴様をイかせるのには充分だ」



「んはあぁぁっ……!」



突然の挿入は、弥子の体に痛みを与えた。


だが、先程からずっと焦らされ続けてきた弥子の肉体は、痛みよりも更なる快楽を求めてのたうった。



「ふっ…こんなに締め付けてくるとは…そんなに我が輩が欲しくてたまらなかったのか?」



「いや…言わないで…」



「それならば、主人として奴隷の期待に応えてやる」



そう言うなり、ネウロの体が上下に動く。


指で触られるのとは比べ物にならない、初めて肉体を貫かれる感覚。


脳が痺れる程の快楽が弥子を襲う。


弥子が快楽に身悶えるたびに、手足に装着された手錠のかちゃかちゃという金属音と、ベッドのスプリングが軋む音が部屋中に響いた。



「あっ……あはぁっ…んっ…あッ」



途切れ途切れになる弥子の呼吸の中に艶のあるものが混じり始め、そろそろ限界が近い様子だった。


弥子を執拗に突き上げてくるネウロの動きに、弥子はもはや耐えられなかった。



「…全く、淫乱な奴隷だ」



「…あっ、あんっ……あぁあッッ……!!」



ネウロの動きが徐々に早くなり、弥子の中でそれが一際質量を増した瞬間。


弥子が絶頂に達するのと、弥子の中に熱い精が放たれたのはほぼ同時だった。






行為の後、ネウロは身支度を整えると、限界まで高められて既に気を失っている弥子の拘束を、一つずつ解いていった。


約束通り紳士らしく、破れた弥子の衣服を魔力で綺麗に整えてやり、ベッドに横たえると、弥子の額に軽く口付けて言った。



「契約成立、だな」









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