ネウロからの呼び出しメールが届いたのは、あれから一週間後の事だった。
                 
弥子としてはできれば顔を合わせたくなかったのだが、ネウロの呼び出しは絶対である。

行かない、という選択肢は元よりないのだ。


重い足取りで魔界探偵事務所に向かった弥子は、嫌々ながら扉を開く。


「やっと来たな、便所雑巾」


ネウロは、事務所の椅子に踏ん反り返って座り、足を机の上に投げ出して待っていた。

――嫌な予感がする。というか、呼び出された時点で、嫌な予感しかしなかったのであるが。


「ヤコ。ところで、地上にはゴールデン・ウイークというものが存在するらしいな。


それで、貴様の休みの予定を確認しておこうと思ったのだ」


話の方向が予期せぬ方に向かい、弥子は少し面食らった。


「そうだけど…。アンタ、もしかしてまた旅行でも行くつもり?


うちは私立校だし、4月29日から5月6日まで一応まるまる一週間休みだけど…。」


弥子は、以前「謎の気配がする」と言ってネウロに温泉旅行のペア宿泊券を奪われた事を思い出していた。

もしかしたらまた謎の生まれる気配を感じて、それに付き合わされるのかもしれない。


「いや。折角一週間も休みがあるのだ、貴様に文字通り黄金の一週間を過ごさせてやろうと思ってな」


思った通り、雲行きが怪しくなってきた。


「ええっと、それは、どういう…」


弥子が恐る恐る尋ねると、ネウロは悪魔のような笑みを浮かべて言った。


「この事務所に、貴様を一週間監禁する」


「い、いやああああぁっっっ!!!」


弥子は、すぐに事務所を飛び出そうとしたが、気付いた時には既にネウロに頭を掴まれて引き寄せられていた。

あのネウロが「監禁」というからには、単に一週間事務所から出られない、という程度では終わらないはずだ。


「何がそんなに不満なのだ。ここなら、最低限の生活は保証されているだろう」


「私の命が保証されてないっっ! っていうか、私にだって色々予定があるんだからね! なんでアンタの言いなりになんか…」


「ほう。貴様、どうやら自分の立場が分かっていないようだな。

この間、自ら望んで奴隷契約を結んだのを、もう忘れたのか?」


「………!!」

思い出したくもなかったが、弥子はネウロによって屈辱的な「奴隷宣誓」の台詞を言わされたのだ。


元よりその時の弥子に正常な判断力など無かったし、それがどのような意味を持つのかなど考えず、

ただその場の苦しみから逃れたい一心で、誘惑に負けて一瞬の恥辱を我慢する方を選んでしまったのではあるが。

だが、それが甘かった。



「覚えていない、というのならここに貴様の肉声を録音したテープがあるが…」



そう言ってネウロは、いつの間に録音していたのか小型のテープレコーダーのスイッチを入れた。



『……この、淫乱な奴隷に、………』



「や、やめてえぇぇっっ!!」



テープレコーダーから聴こえてくる、自らの惨めすぎる言葉に、弥子は思わず耳を塞いだ。


「思い出したようだな」



「嫌っ! 誰が何と言っても嫌っっ! 今年のGWは、叶絵とケーキバイキングに行って、お母さんと潮干狩りに行って、えーとそれから…痛たたたたたっ!」


弥子が叶わない夢を全て言い終わらないうちに、その両腕はネウロによって易々と後ろ手に捻り上げられた。


「貴様は我が輩の所有物だという事が、まだ分かっていないらしいな…それなら、体に覚え込ませてやってもいいんだぞ?」


耳元で囁かれ、弥子は思わず真っ赤になる。


「いいっ!遠慮しとくっ!」


「そうか。それなら4月29日から一週間、空けておくのだな」


「だから、絶対嫌だってばっ!」


「…どうしても、イヤか?」


「………。」


懇願するような、縋るような目つきで言われて、弥子は黙り込むしかなかった。

ネウロの「おねだりモード」が発動したら、もはやいかなる逃げ道も残されてはいない。


「…分かった。お母さんには、友達と旅行って言っとく…」


「話の分かる奴隷で助かるぞ、ヤコ」


ネウロは満面の笑みで答えたが、弥子はこれからやってくる地獄の一週間を思うと、死にたいくらいだった。


(あぁ…何だって私がこんな目に…)







この前、自分の部屋でネウロと二人きりになった時、弥子が淡い期待を抱いていたのは事実だ。

まして、あの「奴隷の宣誓」をさせられるまでのネウロは、普段のドSっぷりが嘘のように、恋人のように優しく触れてくれた。

むしろ、あんな風にされたからこそ、弥子は理性を失ってしまったのだ。

だが、今回は勝手が違う。

ネウロが最初から「監禁」と言っている以上、それ以外の甘いものは期待出来まい。

一週間にも及ぶ虐待のフルコースを思うと、弥子は憂鬱でたまらなかった。






かくして、4月29日はやってきた。

親には旅行と言ってある手前、一応一週間分の着替えと、スーツケースから溢れ出すほどのお菓子は持ってきたのであるが。


「よく来たな、ヤコ」


お馴染みの営業用の笑顔で出迎えるネウロ。

だが、その笑顔にはおよそ似つかわしくない、プレイ用の道具が机の上に所狭しと並べられていた。


「さあ、貴様好みのものを選ぶがいい。今なら貴様の希望を聞いてやるぞ」


子供のように無邪気にはしゃぐネウロだったが、その手に握られているのは、お馴染みの手錠と、血のように赤い色をしたロープ、そして、太い鎖につながれた首輪だった。


(どれも嫌だ…)


「どうした?もっと派手なのが好きならまだあるぞ」


「いえ、結構です…」


「仕方ない。どうしても一つに決められないのなら、全部使ってやろう」


「えぇっ?! いいっ! 一つでいいっ!!」


だが、弥子の抵抗も空しく、あっという間に手錠を後ろ手にかけられ、首輪を嵌められ、鎖をグイっと引かれる。


「…さて」


ネウロは、鎖を掴んでいない方の手でロープを持ち、心底愉快そうに嗤った。

ごついデザインの首輪が皮膚と擦れあい、鎖を引かれると痛くてたまらないのだが、両手を拘束されている以上、弥子には抵抗できなかった


てっきりそのロープで縛られると思っていた弥子は、次の瞬間ネウロが取った行動に驚いた。


ネウロは突然、弥子の着ている服をてきぱきと事務的な手つきで脱がし始めた。


性的な要素を含まず、ただ淡々と服を脱がされる行為に、弥子は戸惑った。



「ちょっと、何する気…?」



あっという間に弥子はパンティ一枚にされてしまう。



「黙れ」



次にネウロは先ほどの赤いロープを取り出し、それを弥子の首からかけた。


更に首の下で結び目を作り、そこから一定の間隔を空けて結び目をいくつか作っていく。


そのままロープを股間に通し、背中に回して再び結び目を作り、最初に首にかけた輪の部分にそれを通す。


そして更に、ロープの端と端をそれぞれ脇の下を通して体の前面に持ってくると、結び目と結び目の間にロープを通す。


体の前面と背面にロープを交互に通していき、綺麗な菱型になるようにロープが結ばれていく。


一連の動作を流れるような手つきで行なわれ、弥子は呆気に取られながらただそれを見守るしかなかった。



「出来たぞ」



「……!!」



弥子は、自分の変わり果てた姿に驚愕した。


乳房の形を強調するようにロープが菱型に縛られており、股間に通されたロープは常に弥子の陰部を刺激している。


更には、ちょうど陰核に当たる部分にも結び目が作られているため、下着の上からとは言えかなりの刺激が与えられている。


いわゆる亀甲縛りと呼ばれる緊縛法で、赤いロープと白い肌が織り成すコントラストが、弥子を一層扇情的に見せていた。



「幼児体型の貴様でも、こうすると少しは色っぽく見えるな」



そう言ってネウロは唇の端を上げて笑った。


弥子自身、自分の変わり果てた姿に驚いていた。


縛られた事による不快感を感じる以前に、全身をロープで縛られ、自分が一つの道具のようになってしまった感覚に、弥子は戸惑いを感じていた。



(本当に、自分の体じゃないみたい……。私の体って、こんなだったっけ?)



ネウロは弥子の鎖を引っ張ると、窓際に立たせた。



「さて、ヤコ。こんな貴様の姿を見たら、他の人間はどう思うだろうな?」



「……どういう事?」



「ここは4階とは言え、向かいにはビルがある。いつ誰が貴様の姿を見ていてもおかしくはない」



「……!!」



確かに、ブラインドも閉めていない事務所の窓からは、あられもない弥子の姿が丸見えだった。



「いや…きゃっ!」



せめて自分の体を人目から隠そうと、咄嗟にしゃがみこもうとした弥子だったが、ネウロに鎖を引かれて無理矢理立たされてしまう。


そしてネウロは、いつの間に用意していたのか、事務所の天井の中央に取り付けられたフックに、

弥子の首から伸びている鎖の先端を掛けると、鎖の長さを調節して弥子が一定の範囲しか歩けないようにした。


弥子の活動範囲は今や部屋の中央のみに限定されており、これでは窓の外からの視線をかわす事は至難の業だ。



「ネウロ…お願い、やめてよぉ…」



消え入りそうな声で懇願する弥子。



「いいではないか。外の人間共に貴様がどんなにいやらしい奴隷か、見せ付けてやれ」



「違う……。私は、奴隷なんかじゃ…」



その途端、弥子は平手打ちされた。



「いいか、これは貴様が望んだ事だ。奴隷契約を交したからには、主人の命令は絶対だ。


……安心しろ。この一週間、我が輩は貴様をここから出す事はない。我が輩以外が貴様に触れる事はない。


ただ他の人間共に、貴様がどんなに淫乱な奴隷かという事を見せびらかしてやるだけだ」



そう言って、ネウロは弥子の顎をつい、と持ち上げ、その唇に口づけた。


弥子には、ただ泣きながらその口づけを受ける事しかできなかった。


奴隷になるという事は、他人の所有物になるという事だ。


自らの意志は認められず、主人に絶対の服従を誓う―――惨めだが、それが現在弥子が置かれている状況だった。



「では、早速奉仕をしてもらおうか」



「……?」



そう言うなりネウロは、弥子を床に向かって突き飛ばした。



「きゃっ…!」



だが、すぐに起き上がろうとした弥子の眼前に、ネウロの分身が突きつけられる。



「奴隷として、ご主人様に挨拶しろ」



同年代の少女から比べれば、性的な事には無頓着でややオクテだった弥子には、ネウロの言葉の意味がすぐには分からなかった。


それがどういう意味なのかを悟った時、弥子は必死で逃げようとした。


が、すぐに鎖を引かれて引き戻されてしまう。



「どうした。早くご主人様に奉仕するんだ」



そんな事、できるわけがない。


弥子は、この間自分の肉体に男性自身を受け入れた事自体初めてだったのだ。


口での奉仕など、経験もなければ知識もなかった。



「いや…出来ない…うぐぅっ!!」



その途端、弥子の下腹部に痛みが走った。


ネウロが靴のつま先を、弥子の秘所に押し当てたのだ。


しかも、弥子の陰核を先程から刺激している、ロープの結び目の部分をピンポイントで狙って。


慢性的に与えられる快楽によって、弥子の下着は既に愛液で濡れていた。



「舐めろ」



ネウロの分身が、弥子の唇に押し当てられる。



「出来ないよ、ネウロ……」



弥子は泣きながら訴える。


その途端、ネウロはしゃがんで弥子の耳元に口を寄せた。



「……ヤコ。我が輩が何故こんな事をしているか、まだわからないか?」



「………?」



質問の意味を図りかねている弥子に、ネウロは続ける。



「貴様は我が輩の奴隷だ。他の誰の物でもない、我が輩だけの奴隷だ。誰にも渡したくない」



ただでさえ異常な状況に置かれて混乱している弥子は、突然のある種愛の告白ともとれる言葉に、頭の中が真っ白になった。



「貴様がどんなにいやらしくて、従順で、可愛い奴隷なのか―――それを示して欲しいだけなのだ」



先程までの態度が嘘に思えるほど優しい声音で囁かれ、弥子は思わずコクン、と頷いてしまった。



「よろしい」



ネウロが立ち上がると、弥子は恐る恐る唇を開き、それの先端に舌を這わせた。


やり方などわかるはずもなく、弥子はただひたすらネウロの分身をちろちろと舐める。


両手も塞がれていて、ただひたすら舐めるだけのフェラチオだったが、涙を流しながら奉仕をする弥子の姿にネウロ自身も高められているようだった。



「やれば出来るではないか。次は咥えて奉仕するんだ」



言われるままに、弥子はその先端を口に含む。


ちゅっ、と音を立てて先端部分を吸う。



「そうだ。もっと奥まで咥えろ」



そのまま弥子は、肉棒をすっぽりと完全に咥え込む。


だが、先端が喉の奥に当たり、思わず吐き気が込み上げてくる。



「どうした。さっさと続けろ」



弥子は、唇をすぼめて、必死に顎を上下させた。



「いいぞ…上出来だ。一体、こんないやらしい事をどこで覚えたのだ?」



「ひがっ…ふぐぅっ」



違う、と否定しようとしたが、ネウロの欲望で口の中を満たされているため、それは言葉にならなかった。


その時、向かいのビルの窓にちらりと人影が見えた気がした。


全身を赤いロープで縛られ、跪いて男根をしゃぶっている惨めな自分の姿。


もしこんな姿を他人に見られていたら―――そう考えるだけで、凄まじい羞恥心と共に一種の興奮を覚える事に、まだ弥子自身は気がついていなかった。


次の瞬間、ネウロの両手が弥子の頭を掴んだ。



「貴様が、我が輩の従順な奴隷である事を見せ付けてやる」



そう言って、ネウロは弥子の頭を押さえつけたまま、腰を振った。


喉の奥の方まで突かれて、弥子はむせそうになるが、頭を押さえつけられていてはそれも叶わない。



「ンっ……」



一瞬、ネウロの口から切なげな呻きが漏れたかと思うと、次の瞬間、弥子の口内は熱い迸りで埋められた。



「うっ…げほっ、げほっ」



突如口の中に充満する性臭に、弥子はむせ返った。



「吐き出すな。全部飲め」



青臭くて苦いそれは、決して飲み下せる代物ではなかったが、鼻をつままれた上に口を塞がれ、反射的にそれを飲み込んでしまった。


弥子の唇から、白い残滓がつうっと滴り落ちる。



「いい子だ」



ネウロはそれを人差し指で拭うと、弥子の額にそっと口づけ、力の抜けた弥子の体を抱きしめた。



―――弥子の監禁生活は、まだ始まったばかりだ。





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