5月1日
気が付くと、私はネウロの腕の中に居た。
ネウロの長い腕の中に、すっぽりと包み込まれている。
ふいに、耳元にネウロの唇が寄せられる。
唇が耳に触れそうな程の距離で、ネウロの吐息が耳たぶにかかる。
背すじがぞくっとした。
でも、それは決して不快感から来るものではなく。
「ヤコ。……愛している」
低く甘く、そう囁かれて。
私は脳天から蕩けそうになる。
そっか――――初めて会った時から、こいつの“謎解き”に付き合ってるのも、
そもそもこんな理不尽な監禁をされてるのも、ネウロの事が好きだから、だったんだ。
そんな事をぼんやりと思いながら、私も、と答えようとした所でそれは叶わなくなった。
突如、ネウロの唇が私のそれを塞いだからだ。
唇を吸うようにして、深く深く口づけられる。
ネウロの舌が唇を割って侵入してくる。
私の舌に絡み付いて、二人の唾液が混ざり合う。
腰に回されたネウロの腕が、私を引き寄せる。
これ以上近付けないほど体が密着して、ネウロの鼓動が伝わってくる。
きっと、ネウロにも私の鼓動が伝わっているんだろう。
こんなに心臓が速くなってるの、気付かれたら恥ずかしい―――そう思っても、鼓動が速くなるのを止められるわけもなく。
「んっ…」
口づけたままの状態で、思わず声を漏らしてしまった。
ネウロは、一旦口づけを解いて―――でも唇は軽く触れ合ったままで―――囁いた。
「貴様が欲しい」
薄く目を開けると、文字通り目と鼻の先の距離で、ネウロと目が合った。
まるで心の中まで見透かされているかのような視線に、私の思考は完全に停止する。
唇を触れ合わせたまま伝えられた言葉に、私は思わずコクン、と頷いてしまう。
私はネウロに横向きに抱き抱えられて、ソファの上に横たえられた。
ネウロの手によって、一枚一枚服を脱がされていく。
大きな手が、直接私の肌に触れる。
「…くすぐったいよ…ネウロ」
その手が、私の胸に伸びる。
ネウロの大きな手の中に、すっぽり収まってしまう私の胸。
優しく揉みしだかれ、時々乳首をキュ、と摘まれる。
「…あぁ…っ」
自然と声が漏れる。
そのままネウロの手が下へ降りていき、私の下腹部に到達する。
ネウロの中指が、私の一番敏感な部分をトン、と軽く叩く。
「あはぁっ……!」
「感じているのか」
指が私の一番奥にまで入ってくる。
もうとっくにとろとろになっているそこを、ゆっくりと掻き回される。
「あっ…いい…っ」
私は熱に浮かされたように、淫らな声を上げる。
「どうして欲しいんだ?」
耳元で囁かれ、私は自分でも驚くくらいに、素直にネウロを求めた。
「ネウロが…欲しいの…」
ネウロが、私の中に入ってくる。
「んっ…!」
まだ男性を受け入れる事自体に慣れていないそこに、痛みが走る。
「痛いのか」
いつになく私の体を気遣ってくれるネウロの優しさが嬉しくて、私は首を横に振る。
「ううん、平気…」
ネウロが私の一番奥まで入ってくる。
頬や唇に優しく落とされる口づけ、私の体を這い回るネウロの手。
全身が性感帯のようになっている今、絶頂はもうすぐそこだった。
「…愛している」
再び耳元で囁かれたその言葉で、スイッチが入ったように私の体はいとも容易く達する。
「あぁっ…私もっ…愛、してるっ……あっ、ああんっ、イクぅぅぅっ!!」
私がはしたない声を上げて果てたのと、私の中にネウロが熱い欲望を吐き出したのはほぼ同時だった。
「随分とお楽しみのようだな、露出狂」
「え……?」
気が付くと、弥子はすっかりお馴染みとなった拘束姿で、ソファの上にいた。
そもそもこんな格好をしているのはネウロのせいだと言うのに、「露出狂」というのも随分な挨拶だが。
愉しげに顔を覗き込んでくるネウロの顔を見ながら、弥子は漸く事態を飲み込み始めていた。
(そっか…私、ここで眠ってて…。えっ?
じゃあ、さっきのは、もしかして…)
「随分と楽しそうな夢を見ていたようだったのでな。我が輩が直々に手伝ってやったのだ、喜べ」
言われて弥子は改めて自分の体を見てみる。
そして、やけにリアルだった夢の原因がわかった。
弥子の大事な部分には、おぞましい形状をしたバイブレーターがずっぽりと埋まっていたのだ。
みるみる顔から血の気が引いていく弥子。
「ちょ、何これ…! 早く外してよ…っ」
「あんなに『イイ』『イク』とよがっておいて、今更外せと言うのはどうかと思うが」
「……!!」
弥子は、顔を真っ赤にして俯いた。
(まさか…よりによって、あんな恥ずかしい夢の寝言聞かれるなんて…!)
俯いて、その目に涙を滲ませる弥子。
「それにしても、寝ている間にこんなものをすんなり飲み込んでしまうとは、貴様は下の口も貪欲なようだ」
弥子自身、夢の中での自分の乱れように驚いていたが、こんなバイブレーターを挿入されていたのならその乱れようにも説明がつく。
第一、ここ数日ずっと全裸で縛られたままでいたせいか、ロープが常に当たっている弥子の陰裂は、今までよりずっとずっと
感じやすくなってしまっていた。
(でも……おかしくなってたのはコレのせいだとしても、どうしてその相手がネウロだったんだろう……?)
「さて。そんなに我が輩が欲しくて堪らなかったのなら、主人として応えてやる必要があるな」
そう言って、ネウロは弥子の上に跨がった。
「えっ………?! ちょ、ちょっと待った!」
「今更何を言う。あんなにはしたない声を上げて、我が輩を求めていたではないか」
「ち、違っ…」
弥子は顔を真っ赤にして否定しようとするが、事実だけに次の言葉が出てこない。
(こんな監禁なんかされてるから…こいつとずっと一緒にいるから、混乱してただけ…。
本当にネウロの事が好きなわけ、ないじゃない)
そう自身に言い聞かせてみるものの、ネウロに聞かれてしまった言葉を取り消せるわけでもない。
それだけではない。
「あはあっ………!!」
突如バイブのスイッチが入れられ、弥子の中でブーン……と静かな電子音を立てた。
弥子の体に、まるで電撃が走ったかのような快感の波が襲う。
「欲しいんだろう?こんな玩具ではなく、我が輩の熱いモノが…」
「ち、違…」
「そうか?
貴様がコレの方がいいと言うなら、それでも構わんが」
そう言ってネウロは、バイブを「強」に設定する。
「あああぁ……っ!!」
弥子の背中が弓なりに反り返り、一際大きな嬌声を上げる。
断続的に快楽を与え続けられた弥子の体には、玉のような汗が吹き出していた。
自分の体内に、異物が挿入されているだけでも不快なのに、その上その異物にさえ快楽を感じてしまう自分に、弥子は嫌気がさしていた。
ただ、その羞恥心が更に快楽を増している事にはまだ気づいていないのであるが。
その上、ネウロがいつバイブのスイッチを入れるか分からないという不安が、更に弥子の体を限界に追い詰めていた。
「我が輩の事が、欲しいのだろう?」
ネウロは、得意気に唇の端を上げて嗤う。
(ここで、“欲しい”なんて言えるわけがない…。夢の中では、コレのせいでおかしくなってつい口に出しただけ…)
何とか自分に言い聞かせてみるものの、一度疼き始めた体を鎮めるには一つしか方法がない事を、弥子は身を以って知っていた。
――――そして、もう自分が堕ちる所まで堕ちてしまっている事も。
弥子は次の瞬間、信じられない事に夢の中で言ったのと同じ言葉を口にしていた。
「お願い…これじゃなくて、ネウロが、欲しい…」
「いいだろう」
ネウロが唇の端を上げて嗤うと、弥子の体内に埋まっていたバイブを一気に引き抜き、代わりに自らの肉棒をその窪みに挿入した。
バイブレーターとは異なる、熱を持った塊がズン、と弥子の膣内を埋め尽くす。
「あはぁっ……!!」
思わず、弥子の口から一際大きな悦びの声が漏れる。
「いやらしい雌犬め。ずっとこうして欲しかったのだろう?」
弥子は両目から涙を流しながら、自分の上で得意気に笑っている男をただ見上げる事しか出来なかった。
男を咥え込んで、その動きに合わせて体をしならせる自分がたまらなく惨めだった。
しかしそれ以上に、現在自分の体を支配している快楽を与えてくれるのがネウロであるという事実の前には、
そんな惨めさや悔しさなど、些細なものでしかなかった。
髪の毛をぐいっと掴まれ、無理矢理上を向かされる。
「どうして泣いている。貴様は泣くのではなく、笑うべきだ」
弥子がすすり泣く声と、ぐちゅぐちゅという二人の粘膜が擦れ合う音が事務所内に響いている。
意識とは別に、体が快楽を求める感覚。
この数日で、すっかり弥子の体に染み込んでしまった感覚だ。
先程の夢の内容は―――恐らく、弥子の願望そのものである。
これだけ惜しげもなく肉体を差し出し、恥ずかしい部分を見られている相手が、恋人として優しく扱ってくれるのなら、弥子自身納得がいく。
だからせめて、夢の中では恋人として優しく接して欲しかった。
こんな監禁などという非道な事をされて、それでもなおこの男を求めてしまう自分の肉体が、弥子は許せなかった。
「………ネウロ、」
弥子は、泣きじゃくりながら途切れ途切れに声を絞り出す。
「……私の事、好き?」
弥子自身、何故そんな事を聞いたのか分からなかった。
だが、気がついたらうわ言のようにそう口にしていた。
一瞬、ネウロは呆気に取られた顔をしたが、すぐに弥子の耳元に唇を寄せて言った。
「愛している」
それが引き金になって弥子は果てた。
それとほぼ同時に、ネウロの熱い欲望が体内に吐き出される。
眠っている間からずっと断続的にバイブで刺激され続けていた弥子は、ぐったりとして再び眠りについた。
「…我が輩には理解出来ないが、」
弥子の寝顔を見ながら、ネウロは独り言のように呟いた。
「貴様が一番欲しい言葉、だったのだろう?」
ぐったりとして横たわっている弥子の前髪を撫でながら、魔人はいつまでもその寝顔を見詰めていた。